味いちもんめ 28
今日も「藤村」に、常連の社長と円鶴師匠が来ていた。しかし、ここ2か月前からこの二人以上に「藤村」へ毎日のように通ってくる客がいた。しかも、若い女性。でも、特別酒が好きなようなようにも見えない。その女性がなぜ「藤村」に通ってくるのか気になる伊橋。どうやら、彼女は誰もいないマンションへ帰るのが寂しいようなのだ。常連が増えるのはありがたいことだが、寂しさを紛らわすために「藤村」で酒を飲んでいるこの女性のことが心配になってきた伊橋は、ある考えをひらめつく……
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「藤村」の常連である“社長”は、今日のデザートが葛切と聞いて「実は…」と話し始めた。ある日、“社長”は、さる女性社長と、お茶を飲んで話すうちに、その言葉遣い、立ち居振る舞い、奥ゆかしさにすっかり魅了されてしまったと語る。その時のお茶受けに出されていたのが葛切だったという。この優雅な女性に対して、家の茶の間に寝そべって大判焼きを食べていた女房のガサツさを見て、腹が立ってケンカしてしまってから、まるで「葛切」と「大判焼き」の2つの食べ物が対照的であるように、あの女性と女房が対照的な存在に見えてしまう。そして、時には女房が疎ましくなることがあると“社長”は嘆くが……
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