味いちもんめ 14
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岩田は、「藤村」でもベテランの仲居。盛り付けの間違いや料理の味の善し悪しなど、すぐに見抜いてしまうので、花板の熊野からも一目置かれていた。だが、口の悪い伊橋は、その個性的な風貌を“オコゼ”にそっくりなどと陰でからかっていた。ある日、ボクシングの日本チャンピオン・辻本が「藤村」を訪れる。辻本は、試合当日の昼食は、岩田の細やかな気配りで落ち着ける「藤村」ですると決めているのだ。しかし、今回は減量に失敗して体調を崩していた。これを見て取った岩田は、特別に「おぼろ梅」を用意させる。この一品が辻本の食欲を呼び起こし、減量の失敗で危ぶまれた防衛戦に勝つことができた。確かに岩田の風貌は、虎魚(おこぜ)同様いかついが、その中身も虎魚(おこぜ)同様、逸品の「藤村」の名物仲居であったのだ。 -
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ある日、伊橋は板場の食事用としてキンピラを大量に作った。その日、見るからにヤクザと分かる2人組の客が来る。“アイツらにはこれで充分”と考えた伊橋は、昼に作ったキンピラを先付けとして出すが、弟分のヤクザは大喜びだった。その夜、伊橋は暴走族に因縁をつけられるが、さっきのチンピラに救われる。数日後、あのチンピラが伊橋を訪ね、近々、鉄砲玉として対立する組長を殺すことになったと話す。そして、「死ぬ前にもう一度あのキンピラが食べたい」と頼まれた伊橋は、今度は心を込めてキンピラを作る。結局、チンピラは組長を殺すことができず、足を洗って故郷に帰る決意をする。すべては、「藤村」で食べた伊橋のキンピラの味が、母親の味に似ていたのがきっかけだった。 -
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伊橋の兄の学が、前々から付き合っていた女性の上原みどりと結婚することになった。その披露宴の料理を兄から頼まれた伊橋は、ふたつ返事で引き受ける。素材の魚は、新婦の弟・太一が届けるとのこと。披露宴当日、太一の運転するトラックによって三陸から立派な鯛が運ばれて来る。無事、大役を終えた太一だったが、披露宴に出席する様子がない。昔、グレていた時に姉に迷惑をかけたことを気にしていたのだ。披露宴への出席をためらう太一の姿に、自分と家族の関係を重ね見た伊橋は、静かに教え諭して披露宴会場に送り出す。しかし、当の伊橋は、父親と絶縁関係にあるため披露宴に出席できず、会場の外で兄夫婦の門出を祝うしかなかった…… -
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休日に親子三人で遊びに行き、楽しく過ごした坂巻。坂巻は、楽しかったものの子供を持つと行き先は限られるとも感じていた。そして、その休日明けの「藤村」に、小さな子供を連れた予約客がやって来た。しかし、その小さな子供が、走り回るは大声は出すはで、熊野も困ってしまう。他の客に迷惑になるので仕方なく店を出ていこうとしたその客に、坂巻が声をかけた。すると、今日が「結婚記念日」なので、親子でせめて年に1回くらい本当に美味しいものを食べようと思って「藤村」を予約したのだという。これを聞いた坂巻は、その小さな子供のために特製の「お子様ランチ」を作るのだ -
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熊野の一人娘・エミには、今結婚を考えている相手がいる。しかし、熊野はその相手にどうしても会ってくれない。何とか父親を説得して欲しいと相談された伊橋だが名案が浮かばない。相談を受けた数日後。伊橋は「藤村」の常連・円鶴師匠に「嫁菜飯」を出したところ、他のに変えてくれと言われる。師匠は、「嫁菜」という名が辛い思い出を呼び起こすからだと話し始める。それは、東京大空襲で亡くなった優しい姉の思い出だった。その姉の夢が、キレイなお嫁さんになることだったので、「嫁」という言葉を聞くと、反射的に死んだ姉のことを思い出して辛いのだと打ち明ける。自分に娘ができたら結婚する時は、その姉の分まで祝ってやろうと考えていた円鶴だが、皮肉にも娘はできなかった。だから、今では幼馴染みの熊野の一人娘のエミが嫁に行く時を楽しみにしているのだという。この円鶴の話を聞いた熊野は、エミが結婚を考える相手と会う決意をする
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