現代柔侠伝(11)
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“柔侠伝”シリーズでお馴染みのバロン吉元先生の『昭和柔侠伝』に続くシリーズ第3弾。主人公も、柳勘太郎(言うまでもなく、昭和柔侠伝の主人公)の息子で、柳家3代目の柳勘一。この第1巻は、戦後の激動と混乱の時代を、ほがらかに、明るく強く生きる、幼少時代の勘一少年を中心に描かれる。終戦直後の“焼け跡闇市”の時代も、遠いむかしの話であるが、さすがのバロン先生。この作品でも、的確な時代考証と見事なばかりのストーリー展開で、わくわく胸踊らせてくれる。作品自体が長編のため、この第1巻は、“焼け跡闇市”の時代をけなげに生きる勘一少年の話が中心だが、強烈で感動的な読後感があり、つい、第2巻にも手を伸ばしてしまうのだ。 -
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第2巻も幼少期の勘一少年の活躍を軸に話はすすむ。父・柳勘太郎もすでに復員済みで、終戦後2~3年の“焼け跡闇市の時代”に、請われてテキヤ(露天商)の一員となる。母・朝子は、これも人生のアヤで婦人警官となるが、父・勘太郎同様、勘一と出会うことは、まだない。この親子3人、とことんすれ違ってしまうのだ。また、ヤクザや暴力団まがいの新興テキヤが跋扈する時代に、柳勘太郎は「鬼勘一家」という一家を構え、テキヤの親分となる。その頃の勘一少年は旅まわりのサーカス団の一員として、全国各地を巡業して回っているのだが、ここでも当然、絵にかいたような見事な“すれ違い家族”ぶりで自ずとストーリーもスリリングになる。が、あくまでも柳一家は明るさが真骨頂。この無垢な明るさ、一途さ、純粋さにひたれるのも、この作品の大きな魅力のひとつに違いない。 -
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道場主に見込まれ、青森の“梵天道場”で合気道の修行をした勘一は、北海道から鹿児島へと巡業の旅をつづける。まだ幼いとはいえ、サーカス団の一員の勘一は、日本中を旅してまわるのも仕事なのだ。けれども、鹿児島の旅は勘一少年に幸運をもたらす。青森の梵天先生の古い友人の徳三砲という人物をとおし、柔道と出合うのだ。愛くるしくはあるが、陽気で正義感も強い勘一少年には、まさにうってつけの幸運な出会いだった。時代は、まだ戦後の昭和24年。GHQの意向ばかりが優先される時代であったが、わが国のヤクザやテキヤの勃興ぶりもめざましい(そして忘れてならないのが、戦後の三大鉄道事件。下山、三鷹、松川事件だ。これらの事件の疑惑についてもこの3巻にくわしく描かれているので、ぜひご一読を)。また、柳家に関していえば、奥さんの朝子が婦人警官を辞め、いろんな困難をのりこえながらも、勘太郎の元に戻ることになるのが嬉しい。 -
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島田大サーカスの公演の旅で、勘一少年も熊本を訪れ、空中ブランコでデビューする。が、いきなりの落下で、勘一少年のサーカス人生にも暗雲が立ちこめる。柔道のほうは、ガマ先生こと、村木彦政七段を紹介されて、順風満帆……だが、今度はサーカス小屋が火事になる。まさに、波瀾万丈を絵にかいたような人生だが、勘一少年は、どこまでも明るく、元気だ。その間、父の勘太郎は、菊水グループの滝村の陰謀で、殺人罪に問われ、収監される。勘一少年の人生は順調でも、昭和24~5年当時の世の中は、まだまだ殺伐としているのだ。占領軍司令官・マッカーサー元帥の解任が昭和26年だが、その頃、戦後日本の大立者、黒竜会の中野国彦は、菊水グループの滝村との利害の対立、そして暗闘のすえ、暗殺されてしまう。この結果、戦後の闇社会の支配者は、当然滝村……ということになるのだが、ことはそう単純ではない。GHQの保守派や政治家、その他、有象無象が、まだまだ暗躍しているのだ。テキヤの「鬼勘一家」の活躍は、まだまだこれから。正義漢・柳勘太郎の無実が説明され、出獄してからということになるだろう。 -
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昭和31年、この年、柳勘一は、熊本の鎮西高校の一年生で、柔道部員であった。一時期、得意の絶頂にあった菊水グループ会長・滝村もGHQの謀略で逮捕され、この頃ではすでに“過去の人”となっていた。また父親の柳勘太郎は、無実が証明され、昭和26年に無罪、釈放されている。しかし、同じ年に都内の露店も全廃され、テキヤの大親分・柳勘太郎にとっては、世間の風は、想像以上に冷たいものとなっていたのだ。そして、時が移り、昭和31年、柔道に精力を注いでいた柳勘一は、長い間、音信不通だった母・朝子と再会することになる。父・柳勘太郎は、軍隊の先輩のツテで、日航の副操縦士となっていた。母との出会い以降、稽古に身の入らない勘一は、思春期の影響もあるのか、しばしば授業も練習もサボるようになる。そして、そんな時、遊子という、とてもセクシーで不思議な女と出会うことになるのだ……。 -
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高校が夏休みに入る前の、昭和31年7月。勘一の母・朝子が熊本まで勘一に会いに来る。勘一は、熊本城から水前寺公園、そして、田原坂、阿蘇高原……と、いろいろなところを案内して、朝子をもてなす。熊本での再度の出会いが、何よりうれしく、楽しいものだったことは、言うまでもない。そして、その高原で勘一は、吹雪茜という美少女と出会い、ひとめ惚れしてしまうのだ。熱血漢・柳勘一の柔道人生は、このようにおおむね“順調”なのだが、その他のことは、まだまだ波瀾ぶくみだ。“電光投げ”のように、スッキリとはいかないのだ。茜との関係は、まだ始まったばかりだし、初めてのキッスの相手・遊子は妖艶でセクシーだが、ちょっぴり怪しい。遊子の兄弟にいたっては、全員が過激で不穏なのだ。ここ当分は、遊子の兄弟とヤクザの赤松組との関係に目が離せないというトコロか……。 -
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昭和31年8月、柳勘一は、熊本・鎮西高校の一員として、全国高校柔道選手権大会に出場する。この大会でも勘一は、無類の強さを発揮して連戦連勝。ことに決勝戦では、“宿命のライバル”、薩南商の辺見一郎と先鋒戦で対戦し、「電光投げ」で、かろうじて勝利する。勘一の活躍もあって、団体戦は鎮西高が優勝するのだが、肉親の愛情に恵まれなかった勘一にとって、何より嬉しいことは、この大会には、父・勘太郎も、母の朝子も応援に駆けつけてくれたことだ。吹雪牧場の茜の“プレゼント”と同じくらい嬉しいでき事だったのだ。そして、優勝後、勘一は残りの夏休みを謳歌する。しかし、そのころ熊本では、県会議員に立候補した赤松勇造の選挙事務所が、銃とダイナマイトで武装した4人組に襲撃される。これは、実の母親を妾にした赤松勇造への遊子兄弟の復讐劇で“天誅”のようなものだが、ほかの多くの復讐劇に見られるように、見事に失敗してしまう。3人の兄弟を一瞬のうちに亡くし、途方に暮れる遊子。若い怨念の火も消え、すべてが潰え去ったのだ。それでも、赤松勇造は県会議員にトップ当選し、遊子は懲役2年の実刑に服することになる。また、東京都下砂川町では、土地収容問題で闘争が大々的に盛りあがり、大変なことになるが、柳勘一はまだまだ熊本で平和で熱い柔道人生を送っている。青春真っ盛りなのだ。勘一よ、たゆまず進め! -
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高校柔道九州大会の前日、柳勘一は鉄心会の陰謀で、たらふく飲酒するハメになり、その後、襲撃される。翌日の大会は、二日酔いで出場するが、準決勝で宿敵・辺見一郎が大将の薩南商と対戦する。結果、チームは勝利するが、辺見との大将戦は、かろうじて引き分けに終わる。この結果に猛省した勘一は、金鷲旗、そして、インターハイへと向けて、更に精進をつづけていく。吹雪茜との関係は、まぁ、順調に推移しているが、山鹿の灯籠祭りでは、赤松組の社長が、鉄心会の鉄砲玉に命を狙われる。物語も佳境に入り、柳勘一の活躍には血湧き肉躍る…というところだ。柔道以外の活躍、青春のたぎりには、まだまだ注目だ。 -
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大分で開かれた金鷲旗大会で優勝した鎮西高の柔道部は、熊本には戻らず、そのまま全国高校柔道選手権大会の開催される東京の講道館に向かった。大会へ向けて、練習相手は拓殖大学の柔道部員。ここで鍛えなおして、高校日本一をめざすのだ。大会の出場チームは、全国から50チーム。柳勘一の電光投げもあり、予選リーグを軽々と突破。ベスト16からのトーナメントに挑む。宿命のライバル、薩南商の辺見一郎も絶好調。二人の激しく、熱い闘いの結果や如何に……というところか。また、この10巻の「蛟龍期」から柳勘一は、拓殖大学の1年生となり、寮生活を始める。そして、かつては、新興テキヤの会長として、一大勢力を築きあげた滝村と巡りあうことになる。権謀術数のかぎりを尽くしてきた滝村とはいえ、GHQの謀略にあっけなく服役する羽目となり、昭和34年、ようやく出所できたのだった。柳勘一と滝村。この二人の動向(活躍)には、当分、目が離せないというところか。 -
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戦後の混乱と激動の時代を雄々しく、強く、逞しく成長した柳勘一は、昭和33年のこの年、拓殖大学の柔道部員の一員として、過激で熱く、また濃密な青春時代を送っていた。特に“本業”の柔道では、向かうところ敵なしで、講道館でも“鬼勘”とあだ名されて敬遠されてしまうほど。それでも、全日本大学柔道選手権大会をめざして、獅子奮迅の大活躍なのだが、身のまわりで続出する事件の多さは相変わらず。鉄心会の会長・稲妻聖次を不倶戴天の敵とする滝村と柳勘一との粋で無敵で強烈な男と男の関係。吹雪茜との純愛。そして、遊子との親密で微妙な大人の関係……などと、事件騒動のタネには、コト欠かない始末だ。柳勘一の動向には、公私とも、まだまだ注視が必要というトコだろう。 -
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講道館からの帰り道、銭湯で思いっきり女風呂の“のぞき”を楽しむ柳勘一。正義感は強いが、結構な女好きというのが、柔道家・柳勘一のもうひとつの姿なのである。とは言え、恒例の秋季紅白試合をめざして…ということもあり、稽古、稽古の明け暮れという厳しい柔道家生活、あまり無茶苦茶なこともできず、禁欲的な寮生活にも、ジッと我慢のコなのであった。それでも、根は陽気で楽天的で熱血漢の柳勘一。世の中の諸悪には、どうにも我慢のならない性格(たち)のようで、たとえ巨大なヤクザ組織が相手でも、いつも厳然と立ち向かうのであった。そうして、いつもながら気になる吹雪茜との関係は、相変わらず純愛のまま。また、遊子との“オトナの関係”は、ちょっぴりビミョー(!?)で、滝村や陽炎一家との関係は、いたって良好。しかし、鉄心会との関係は、ますます悪化し、早晩、対決するのも避けられない状態に……!?辺見一郎と上川路漁子との関係も含めて、物語は、ますます佳境に入ってきたという感じ……だ。 -
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昭和34年12月、九州炭鉱に労働争議が勃発。経営側の1000人の指名解雇に対し、組合側は、無期限ストライキで応じたのだ。石炭から石油エネルギーへの移行が時代の流れとはいえ、働く者達の暮らしや諸権利というものもある。そういうものをあまりないがしろにするわけにもいかないのである。そうして、争議は、ますます過激化、先鋭化し、日常的に「スト破り」などとの対決も求められるようになる。ヤクザの鉄心会もこの争議には、全国から1000人もの応援部隊を動員し、スト破りにも余念がないのであった。一匹オルグの山本さんが殺されたのも、このスト破りのため。柳勘一の無念さ、悲しさは察するにあまりあるものなのだ。また、鉄心会に対して、体の芯から怒りを感じているという滝村と辰は、組合側を支援するため、九州・大牟田へ。鉄心会の戦力をたたきつぶすまでは、東京にも帰らない覚悟なのだ。もっとも、世界柔道選手権の代表にも選ばれている独眼竜・柳勘一も柔道は、「社会の諸悪を敵として、正義を実践するため用いる武道」だという自己の信念のもと、滝村のもとに馳せ参じる。鉄心会との戦いは、ますます可烈化の度を深めるが、柳勘一は、いつでも勇猛果敢に先頭に立って戦うのであった…。そしてそれはこれからも絶対にそうであろう。それはそうとして、厳しい戦いのなか、柳勘一と吹雪茜の関係は順調に進展。また、九州・大牟田で知り合った「哀しき淫売」、お炭(すみ)さんとの関係は、完全にお炭さんの一方的な片思いで寂しく推移、悲しい結末を想像させる気配だ(!?)……。辺見一郎と上川路漁子の関係は、相変わらずブキミだし、労働争議にとどまらず、まだまだいろんなトコロに目の離せない、ハラハラドキドキの展開は続くのであった。 -
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昭和35年(1960年)の6月15日……アイク訪日反対、岸井内閣打倒、新安保阻止のスローガンのもとに、全学連は国会に突入……。その時に、南通用門で一人の女子学生が虐殺された。樺美智子さんである。協同通信社社会部の正社員となった正義の人、柳勘一はその“死の現場”を含めて、いろいろな事柄をつぶさにメモをして、自分なりの戦いに奮闘し、また“次の戦い”にも備えるのであった。暴力団・鉄心会との戦いは完全に宿命のようで、九炭争議でも激しいバトルを繰り広げる。だが、滝村のひきいる人民軍隊も緒戦ほどのはなばなしい活躍は望めなくなりつつあって、徐々に苦境に立たされる。けれども、化け物屋敷のようではあるが、梁山泊道場という道場を持てたのは、柳勘一の独立独歩を決定づけるものであって、これからの人生の大きな糧になるに違いない。また、吹雪茜との関係は、相変わらずだが、お炭さんとは、これ以上の進展はナシ……をも予感させる。結局、ストーリー的にも、まだまだいろいろなことやドンデン返しもありそうで、このハラハラドキドキ感は、やっぱり最後まで続くのであった……。 -
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昭和35年(1960年)の真夏の暑い一日、この日は、九炭争議はじまって以来の大激戦となった……。九労組と第二組合と警官隊と職組と……、また、炭労組と総評その他のオルグと全学連と……。どれが敵でどれが味方か見分けもつかない大乱戦であった。この激しい戦いの最中に、お炭さんは死んでしまう。愛らしく、心優しいパン助の悲しすぎる死であった。そうして、鉄心会をたたきつぶし、稲妻聖次を殺すことだけを考えて生きてきたシブい任侠の人・滝村も、子分の辰と一緒に最後の決着をつけるために、暴力組織の大集会が開かれている市の芸能ホールに、時限爆弾を持って向かう。鉄心会と激しく対立してきた、正義の人・柳勘一もその事実を知り、大急ぎで芸能ホールに向かうのだが……。いつもどおりではあるが、梁山泊道場の道場主としての柳勘一は、順風満帆、吹雪茜との純愛も順調……。とは言え、安保闘争、九炭争議のなかの柳勘一は……!? いつもながら、ハラハラドキドキのストーリー展開のなか、果たしてどのような決着をみるのであろうか……!?
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