完結
エノが仕組んだターゲットを狩る狂祭で梓をかばった刈野。
キング失格の烙印を捺され失脚させられる。
そして2年1組のカーストゲームが...
緒川千世先生インタビュー
聞き手:担当編集者
「緒川千世ファンブック-flow-」に収録しきれなかったインタビューをここだけで公開。
インタビューは21年1月に録りました。
■『カーストヘヴン』初期のお話
──『カーストヘヴン』はカバーイラストも特徴的ですよね。
緒川 一巻のデザインを考えるとき、五パターンのラフを描きました。懐かしいです。
──改めて見ても一巻の構図は印象的です。「カップルのどちらかの顔が見えない」という案は、四巻まで続くパターンになりました。
緒川 そうですね。少女漫画家時代の経験からカバーや表紙は情報量が多い方がいいイメージでしたので、このラフが採用されたのは意外でした。
──漫画の初巻としても大胆な構図だと感じます。教室のドアのラインが斜めになっているのがポイントですよね。
緒川 そうですね。『カーストヘヴン』のイラストは斜めを意識しています。
──何か不穏なことが起こっているという感じと緊張感が伝わってきました。
緒川 ありがとうございます。
──ストーリーも進むにつれて、理不尽なルールを自分たち次第で変えられるのだと判明していきますよね。特にあつむくんが出てきてからは読者さんの盛り上がりも大きくなりました。
緒川 そうですね。あつむは一番描きやすいというか、ストーリーテラーの役目を担っているので作者の言う通りに動いてくれて助かります。BLじゃなければ主人公はあつむなんじゃないかと思いますが、梓はBLだからこそ主人公になれるキャラクターですよね。
──梓は、逆境でもめげない強さがありBLの圧倒的主人公ですね。あつむくんの成長にも引き込まれます。二人の友達関係も微笑ましくて人気があります。
緒川 お互いに影響しあって変わっていく関係性が好きなので、恋愛以外にもエッセンスが欲しくて描いています。そこに萌えを感じます。
──恋愛以外というところでは、ファンブックのランキングに京子ちゃんが入っているのも嬉しかったです。
緒川 京子は自分が友達になりたいキャラクターで、描いていて楽しいです。はじめに登場したのは「屑」アンソロジーのゆかりと八鳥の話でしたが、ここまでキャラが育つとは思っていませんでした。共学の設定でもBLなので男の子たちにフォーカスしていますが、女の子の世界も女の子なりにあると思って描いています。
──女の子たちの関係性を少し覗かせることで、世界観が広がったと感じます!
■キャラメイキングこぼれ話
──仙崎はキャラクターづくりにも時間をかけていましたね。
緒川 とにかく悩んだ記憶があります。仙崎と巽でバッドボーイと優等生の話を描くことは決めていましたが、はじめの頃はネームにも時間がかかって。まず、バッドボーイの枠組が社会の範疇での不良なのか、社会を飛び越えたアウトローな人か、どちらで進めるか迷いました。描きやすいのは前者ですが、好みはアウトローなんですよ。
──不良モノお好きなんですか?
緒川 学生時代にハマっていました。『池袋ウエストゲートパーク』や『クローズ』『TOKYO TRIBE2』などの抗争モノが好きで、いつかそういう漫画も描いてみたいんですよね。ただ、私にそういう素養がないためにキャラクターがなかなか掴めませんでした。
──そういえば、仙崎はバッドボーイではなくギークという案もありましたよね。
緒川 一旦考えてみたんですが、絶対にこのキャラクターがギークにはならないと思って変えました。バッドボーイ同士にするとしても、仙崎が境遇の違う優等生の巽を好きになる思考を描くのは難しかったです。巽は先に登場していたので、キャラクターありきで物語を作るという点も大変でした。でも、仙崎と巽のカップルには熱いファンがついてくださって。
──そうですね。
緒川 含みのあるラストでしたが、そういうところも熱いファンが増えた理由なのかなと思います。(注:最終巻(8巻)でその後の仙崎と巽のエピソードが描かれています)
──仙崎はエキセントリックさに惹きつけられます。タトゥーもインパクトがありました。
緒川 仙崎はキャラクタリスティックというか、すごくキャラクターっぽいじゃないですか。BLは現実的な設定も多いので、突飛すぎて受け入れられなかったら…という不安がありました。最後まで悩みながら描いた気がします。私は基本的に自分と作ったキャラクターとの距離が遠いんです。あまり自分のキャラクターに感情移入しないタイプですし。そのなかでも、仙崎は一番距離の遠い人という感じがします。
──『カーストヘヴン』は登場するキャラクターも多いし、個性もバラバラですよね。どのように作っていくのでしょう?
緒川 まずはこれまで出てきたキャラクターと違うことを意識します。
──思考回路や言動は、これまでインプットしたものから想像していくのでしょうか?
緒川 エキセントリックなキャラクターは、映画や漫画など、今まで読んできたり見てきたものを思い出します。ただ、見たものを明確にメモをすることはなくて、どちらかというと演出面で参考になるものを意識して見ているように思います。
──振り返ると、はじめは3巻分くらいのボリュームで考えていたんですよね。
緒川 そうですね。でも3巻で終わっていたらキャラクターも増えず、ここまで深く描けなかったと思います。続けてよかったです。
──そうですね。あと、最近登場した江乃も衝撃的でした。
緒川 江乃はいまいちまだ掴めていないですね。もう終わるというのに(笑)。
──江乃と神楽の話、すごく楽しみにしてます!
■メインカップルについて
──「久世・あつむ」「仙崎・巽」編のときに、刈野と梓が見たいという声が届きましたよね。
緒川 刈野と梓は人気がないと思っていたので「誰も言ってなかったじゃん!」ってなりました(笑)。
──カップルが増えていくと、その悩みがありますね。今回、ファンブックの投票ランキングでも、刈野・梓は一番人気です。特に梓の人気がありますね。3501票も届いてます。
緒川 ありがたいです!最初は梓を外からでしか描けていなかったのが、巻を重ねることでようやく梓の内面を描写できるようになってきました。なので本当に長く続けてよかったです。『カーストヘヴン』は描きながら作りあげていった感じがあります。もちろん、先のゴールは決めているんですけど、ストレートな道ではなくて、寄り道しながら経験値をためて、じっくり描いていくことができたと思います。はじめはタテのカーストかヨコのカーストかをすごく迷っていて。編集部に一回目のネームを見せた時、ハッキリ決めたほうが良いのだと思ってネームを描き直しました。
──そうでしたね。
緒川 タテのカーストにすると決めて描き始めたのですが、その上下を表すときに、梓がちゃんと堕ちた感が出るよう攻はある程度ひどい方がよいと思って。途中で、知人に「お前の鬼畜は都合が良くない」って言われました。
──都合が良くないとは?
緒川 「どんなに鬼畜でも、どこかは都合が良いはずだ」と。例えば、ずっと鬼畜じゃなくて受だけには甘いとか。そういう鬼畜がウケるのか〜と思ったんですけど、そういうキャラクターで既に描き始めちゃったので修正もできないなと思いながら描いてます。5巻からやっと刈野にも人間味が出てきて、うまく回りはじめた気がします。
──表紙も5巻から明るくなってきて、だいぶ変わりましたね。
緒川 物語のスタートは不完全な人間で良いと思っています。でも、成長していく必要はあるので、少しずつ刈野が成長していく所を見せていきたいです。みんなが見たいのは刈野と梓の関係なので、この二人にフォーカスすることは忘れずに描いていきます。
■誤算シリーズについて
──『誤算のハート』(海王社)は、どのようにスタートされたのでしょうか?
緒川 「どこに載せるかは決まっていないけど読み切りを一本描いてほしい」というお話をいただいて描きました。読み切りが好評だったので続編を描くことができたのですが、はじめは掲載先が紙雑誌の予定が途中でWEB雑誌になる可能性もあったんです。WEB雑誌への掲載になっていたら読者さんの反応や作品の展開が違っていたかもしれません。当時はWEBと紙の関係も違ったので。
──読み切りを描いたとき、手応えを感じましたか?
緒川 それがなかったんですよね。でも、2013年の春のJ庭に参加したとき、めちゃくちゃ人が並んでいて「えっ!?」と驚きました。『このおれがおまえなんか好きなわけない』(大洋図書)と『誤算のハート』のコミックスが出る時期だったからかな…と思うのですが。
──それは明らかに反響があったといえますね。読者さんが増えたという実感が持てそうです。
緒川 そうですね。読んでくれる人が増えたんだなと感じました。ただ私自身は何も変わっていないので、以前と反応が違うことに戸惑いもありました。イベントも、いつもと同じ感覚で準備してしまってご迷惑をかけたことを覚えています。その節はすみませんでした。
──『終わらない不幸についての話』はお兄ちゃんカップルの話ですね。
緒川 『誤算』シリーズの二作目です。キャラクターから話を作るのが苦手なので、ネームに時間がかかりました。烏童兄が好きになる人ってどんな人だろう…というところから清竹を考えていきました。
──四作目の『やまない不幸の終わらせ方』はいかがでしょうか? 田舎に帰ったり家族や結婚の話が出てきますね。
緒川 並行して描いている『カーストヘヴン』がトンデモなので、こっちは現実っぽくいこうかなというバランスでした。
──結婚に対峙した二人の感情の流れがリアリティに溢れていましたし、田舎の閉鎖的な感じも印象的です。
緒川 私の地元がすごく閉鎖的なので、それを参考にしつつ想像しながら描きました。それと、ずっと学生を描いてきましたが、学生モノを取り巻く状況が変わってきていますよね。『カーストヘヴン』がスタートした頃から、「性描写のある学生モノや18歳未満は控えましょうか」と言われるようになりました。エロのない胸キュンものは描けますが、時代を鑑みると難しくなっています。その点は『カーストヘヴン』で描き尽くせたので良いのですが、作風の幅を広げたくて『やまない不幸の終わらせ方』でのテーマを選びました。
──引き出しがすごく多いと感じます。
緒川 純粋にどちらも描きたいですし、いろんな人に自分の漫画を読んでもらいたいです。『カーストヘヴン』のタイプに寄りすぎるとイメージが固定されると思っていて。私の読者さんのなかでも、甘々が好きな人、痛いのが好きな人がいると思うので、幅広いテーマで漫画を描いていきたいです。
──どんな作品が見られるのか楽しみです。
緒川 「自分らしい」という言葉があまり好きではなくて。私の場合「自分らしい=つまらない」と思うので、まずは自分らしくない漫画を描いてみようと意識します。結局は自分らしい漫画しか描けないんですけど…。でも、スタートする場所は自分から離れていると良いなという気持ちがあります。その方が描いていて楽しいです。
──これまでの作品で、その感覚に近い作品はどれにあたりますか?
緒川 ファンブックに掲載した年表のなかですと『僕のパパになってください』(芳文社)です。私の中からは出てこないものでした。BLとは少し違う作品なところも、冒険できたところです。
■マンガの描き方
──漫画はいきなり描けるものではないですよね? コマ割りの方法や画材ですとか…。はじめはどうされていたのですか?
緒川 雑誌に漫画の描き方が載っていたので、それを見て揃えました。画材は原稿用紙と網トーン一枚、インクとGペンくらいしか手元になかったように思います。
──使ってみていかがでしたか?
緒川 「めっちゃ使いにくい!」ってなりました(笑)。全然使いこなせなかったし、実際とてもヘタクソで散々な評価でした。ですが、少し前に「コマ割りがわからない、という感覚がわからない」という話を漫画家さんとしたのですが、最初からコマ割りが分からなくなったことはないです。お手本はたくさんあるので、ササっとコマは割れてきました。
──ササっと(笑)。その説明だとコマの割り方が学べないです(笑)。
緒川 漫画を読んでいると自然と気づきますよ。読者さんの視線誘導とか、見せたいコマを目立たせるには…といったことを考えればコマ割りは見えてきます。
──緒川先生の漫画はすごく読みやすいです!
緒川 読みやすさは意識しているのでそう言って頂けると嬉しいです。それも少女漫画家時代に培ったことかもしれません。昔は変形コマも使っていたのですが、いまは割とオーソドックスなコマ割りをしていますね。自分なりに読者層や時流は意識しています。どんな切り取られ方をされてもいいように。あと、単純に個人的に読みやすい漫画が好きということもあると思います。
──なるほど。もうひとつ漫画の作り方で気になったことをお聞きしても良いですか。緒川先生はイベント用に作ったペーパーのワンカットからお話を作られたことがありますよね。『ラクダ使いと王子の夜』がそうでしたね。
緒川 読み切りは一枚の絵や一行のセリフから想像を膨らませて話を作ることが多いです。そのときのカットイラストも、後で漫画にしようと思っていました。
──ワンカットに物語性があって読んでみたい!と強く思ったことを思い出しました。カットからマンガに、マンガから音声やグッズにと広がりましたね。この10年で二次展開が色々とありましたが、ドラマCD化は思い出に残っていることはありますか?
緒川 アフレコを見学しに行って、恥ずかしくなってしまったことを覚えています。妄想って自分のなかだけで完結するものですよね。なのにそのセリフを声優さんが発している状況が恥ずかしくて…。もともと共感性羞恥があるので…特にエロいシーンは…本当に恥ずかしかったです(笑)。でも、ドラマCDは読者さんが喜んでくれるので嬉しいです。
──グッズやゲームへの展開もありましたが、この先どんなことをしてみたいですか?
緒川 一番遠い分野の映像と音楽に興味があって、いつか動画を作ってみたいんです。アニメほどではないですけど、PVみたいな短い動画を自分でも作ってみたくて。絵が便利で楽すぎるので、なかなか動画までに行かないんですけど、いつかはチャレンジしてみたいです。